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2012年5月27日 (日)

今さらですが、私のHNについて。
<パンプ>というのは、私の実家に住む犬の名前から取っています。

正確にはパンプキン・なんちゃら(忘れた……というかそもそも犬にミドルネームは必要なのか??)を略し、通称<パンプ>。

最近覚えたのですが、犬種はサルーキー(←wikipediaリンク)という大型犬です。
こんな奴が家の中にいる。私は元来、動物好きでは無いので、なんなんだ、と声を大にしていいたい。なんなんだポイントを以下に記す。

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◆暑さに弱いため(というか、砂漠を旅したって書いてあるけど!)、クーラーの効いた6畳和室を一人占め。それでもぐったりしてる。

◆つまり、エコとは正反対にいる奴。

◆そもそも、犬に6畳の犬小屋ってデカ過ぎないか?!

◆ちなみに私には自分の部屋というものが無い。日中過ごすリビングにクーラーなど洒落たものは無く、扇風機で熱気をかき混ぜるだけだ。それなのに、犬にはクーラー付きの6畳和室。

◆たまに実家に帰ると、玄関先まで飛び掛かってくる。かなりビビる。狩猟犬という文字が頭をよぎる。両親は、「吠えないんだから、家族が帰ってきたと思って喜んでるんだよ~」と笑顔で言うが、それは違う。あの眼を見ていればわかる。

◆あれは、私を<エサ>として見ている眼だ。

◆間違いない。

◆私が1階のリビングで晩御飯を食べていると、音も無くドアの隙間から、細い顔を覗かせていることがある。

◆悲鳴を上げそうになる。

◆私が食べているご飯を、羨ましそうに見ている? それとも遊び相手になって欲しくておとなしく待っている? どちらも違う。私を凝視しているのだ。早く食べたい。お前をデザートとして。そんな無機質な眼で見ているのだ。

◆だから私は痩せることにした。

◆結果、最大65kgあった体重は、今では60kgを割っている。パンプのおかげだ。

◆ウチの親が散歩に連れて行くと、しっぽを振って喜ぶ。案外、可愛いところもある。

◆と思ったら、「こないだ噛みつかれてちょっと怪我しちゃったよ」と父親。「あいつにとっては、遊びのつもりなんだ」と。

◆見ると、遊びでは済まされないほどの大怪我を負っている。これが遊びと呼べるなら

◆エサとして食われる私は、一体どうなってしまうのか。

◆そんな私でも

◆少しは、あいつと仲良くなりたいという願望も持っている。だからこそ、長いことHNに<パンプ>と付け、少しでも犬嫌いを克服しようと頑張っている。

◆けれど、まだ一度も散歩に行ったことすらない。

◆実家に帰るとパンプはまた、床を削りながら玄関に掛け寄り、私に体当たりをくらわせ、大きくよろめいた背中に爪を立て、激しい鼻息と共に涎を垂らす。ああ、少し痩せてしまったけれど、ウマそうなエサが来た。まずは腕から味見して、いや太股からがいいかもしれない。頭はマズそうだから残すとして、腹肉は最後に取っておこうか。

◆そんなことをきっと、考えている。

◆はずは無い。


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↓ なんだかんだで慣れると可愛い奴ですよ。


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2012年5月18日 (金)

薬剤師新人教育について考える

薬学部六年制になり、初めての新卒教育が始まっています。
大学側の教育に加え、やはり五ヶ月の実務実習というのは身になっているようで、業務の飲み込みが早いように感じます。

一方で、(自分が四年制だったということもあり)新人薬剤師がどのようなモチベーションで、何を教育に望んでいるのか、わかりかねている部分もあり、
今までのように、「まずは調剤から」という方針では成り立たないのかもしれませんが、実際はそうせざるを得ないのが現状です。

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さて、(今さらではあるが)新人教育をする上でまずしなければならないこと、
それは<目標設定>でしょう。
そのために、まずは習得すべき業務を羅列する必要があります。


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分類 業務内容/目標
処方箋区分の説明 定期・臨時・継続・緊急・先渡し処方 それぞれの違い、締め切り時間等について理解する。
調剤内規 ① 内服調剤内規を理解する。(主に別包とする錠剤)
調剤過誤防止について ① 調剤過誤防止への取り組み、調剤時の注意点、インシデントレポートの書き方などを理解する。
薬剤配置 どの薬剤がどこにあるかを調べ、把握することが出来る。
薬剤保管 保管に注意する薬剤、保管条件などを理解する。
薬袋作成 薬袋自動印字機の使い方、薬袋発行における注意点について理解する。
ラベル作成 吸入/内服シロップ/院内製剤品等のラベルの書き方について理解する。
内服調剤(錠剤/既成品) PTPシートのピックアップ/自動分包機を用いたワンドーズが内規に沿って出来る。
外用調剤(既製品) 外用調剤(既製品)が内規に沿って出来る。
外用調剤(調製品) 吸入薬の混合、軟膏混合/小分けなどが内規に沿って出来る。
院内製剤(非滅菌製剤) 調剤室で調製する院内製剤の調製法を理解する。
予製 予製品目を把握し、作成することが出来る。

上記は、項目のほんの一部です。
こういった項目の一覧を、<内服調剤><注射調剤><管理業務><DI 業務><病棟業務><無菌調製>でそれぞれ作成します。
これは日常業務で日々実践していることだから、項目を羅列することはさほど難しくありません。

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問題は、習得する時期をどうするか、です。これは多くの施設で悩むところだと思います。
例えば「4月はこの項目」と決めたところで、何らかの要因によって計画通りにいかないのは目に見えているからです。
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私の職場では、各項目をA~Hの段階性を取っていて、時期は明確化していません。
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予製品目を把握し、作成することが出来る。 A
向精神薬の調剤/帳簿記載が内規に沿って出来る。 A
調剤鑑査後の内服薬剤払い出しの流れ、保管場所等を理解する。また、服薬指導介入患者の薬剤の流れを理解する。 A
処方箋の処理、その他調剤に関わる後処理が出来る。 A
内服調剤内規を理解する。(別包散剤) B
散剤分包機を用いた散剤調剤、粉砕調剤が内規に沿って出来る。 B
水剤調剤が内規に沿って出来る。 B
毒薬・覚せい剤原料調剤/帳簿記載が内規に沿って出来る。 B
持参薬調剤が内規に沿って出来る。 C
麻薬調剤/帳簿記載が内規に沿って出来る。 C
治験薬調剤/帳簿記載が内規に沿って出来る。 C
ヒヤリハット報告書(病院指定)や事故報告書の書き方を理解する。 D
正確な調剤鑑査を行なうことが出来る。 E

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A項目から教育を開始し、履修でき次第、項目Bへと移行。
あらかじめ時期を決めてあるわけではないので、新人の力量に合わせ、また教育者の業務量に合わせ、柔軟に対応できるというメリットがあります。

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分野毎に区画整理しており、例えば「6月からは内服A~C項目と病棟業務A項目」などと計画を立てる上でもわかりやすいと思われます。

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各項目の評価をどうするか。
ひとまず、<開始教育者><中間評価><最終評価>と三段階に分け、中間評価で問題なしと判断できれば、次項目へ移行。
評価は教育担当者が実施。

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項目B ・内服・点滴調剤の理解不足を補う。要管理薬剤の運用を理解する。補液や抗生剤等、頻用される薬剤についておおまかに理解する。
・電話対応を開始、必要な情報を担当者に申し送ることができるようになる。
・電子カルテの閲覧、オーダー修正/削除の方法について理解する。
調剤(内服/外用) 調剤(点滴) 薬品/機器管理
  □ 別包薬剤の理解(散剤) □ 毒薬調剤 □ 毒薬・覚原の管理
□ 散剤、水剤の調剤 □ 抗がん剤調剤 □ 腹膜透析液の管理
□ 錠剤粉砕調剤 □ 注射調剤(独立) □ 物品類の発注②
□ 透析調剤   □ 薬剤検品(見学)
□ 毒薬・覚原の調剤    
     

(※実際と内容は異なる)
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一応、半年先くらいまでは大まかなプランを思い描いていますし、実際現場でも大きな混乱なく実施できている(と思われます)。自己評価も合わせて行なわせており、負担なく教育は進められている(はずだと思ってます)。

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さて、ここで問題が浮上してきます。
<薬学的知識をどこで教育するか>
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業務としての教育であれば、このような形で進行できますが、臨床で役立つ知識をどう教えていくか、というのは難しい。
私自身、先輩や上司がほぼ不在の薬局で育ったものだから、人から何かを教わった記憶などほとんど無いんです。

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選択肢として、以下が挙げられます。

・ 自主学習
学生じゃないんだから、専門職として自分で学習するのは当たり前。業務のことなら教えるけど、勉強なら自分でやってよ。お金もらって働いてる社会人なんだから当然でしょ。

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・ 課題を与える
自分で考えるのは大事だけど、どういう項目を学ぶべきなのか、臨床ではどういう知識が求められているのか、そのくらいは教えてあげないと。全部を新人任せにするのは、職場としてどうかと思う。

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・ 講義を行う
先輩薬剤師として、知っている知識を伝授するのは当たり前のこと。人に教えてこそ、理解が深まるし、新人にとってもためになるでしょ。

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……どれがいい方法なのか、私にはわかりません。
ひとまず、上記3つとも採用し、並列して行なっていく予定ではありますが。

ちなみに<課題>はどんなものかというと、

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◇一包化のメリット・デメリット

◇後発品調剤のメリット・デメリット

◇規格により適応の異なる薬剤

◇要管理薬剤の運用まとめ

などなどです。

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↓ 教育についていろいろ悩んでいる諸先生方、ぜひ意見交換でもどうでしょう。


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2012年4月22日 (日)

これってハラスメント?

セクシャルハラスメント、いわゆる「セクハラ」に代表されるハラスメントが認知されて久しい。

当然、職場においても「セクハラ」「パワハラ」、あるいは「ドクハラ」なんてものもあるわけで。
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今回のテーマでは、
『これってハラスメント(=嫌がらせ)じゃないの??』

という事例を紹介していく。
もちろん、私の愚痴及びストレス発散目的も兼ねていることは言うまでもない。


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◆CASE .1
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【対象】   医師→薬剤師
【ジャンル】 ドクハラ?
【程度】   ★★★☆☆

ある医師と、患者の会話である。

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患者: 「先生、薬をもらうのにずいぶん時間が掛かるんですけど、なんとかならないんですかね?」

医師: 「病院の前の薬局だと込むからね、家の近所の薬局にでも持っていったらどうですか?」

患者: 「そうですね……。そういえばこないだ、門前の薬局に処方せんを持っていったら、規格の違う薬を渡されたんですよ。飲む前に気付いたから良かったけど。待たされるだけじゃなくて、間違えた薬を渡すなんて……」

医師: 「それは怖いですね。まあ、最近の薬局なんてコンビニみたいなもんだし信頼出来る所に行った方がいいですよ」

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……元はと言えば間違えた薬局も悪いが、言い方というものもあるのではないか。

こういう会話があったと患者から聞かされた時、言いようもない不快感が押し寄せてきた。
病院で働いている私がそうなのだから、日々努力を重ねている調剤薬局薬剤師からしたら侮辱以外の何物でもないだろう。

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◆CASE .2
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【対象】   医師→患者
【ジャンル】 ドクハラ?
【程度】   ★★★★☆

ある治療を受けている患者から聞いた、医師の心無いセリフである。
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その患者(以下Aさん)は、一生付き合っていかなければならないある疾患に罹っている。毎月通院していたのだが、あまりに医師の態度が横柄で不愉快に感じたAさんは、自宅から離れたB病院へ行くことにした
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B病院へ数年間通っていたまではいいが、ある日突然体調が悪くなり、自宅に近い、あの嫌な医者のいる病院へと救急搬送された。

何か小言を言われることを覚悟していたAさんだったが、案の定というべきか、医師は横柄な口調でこう言ったという。
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『あ~あ。ウチで治療してれば、こんなにはならなかったのに』
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治療云々については、私には判断できないが、もっと言い方というものがあるのではないかと思わずにいられない。

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◆CASE .3
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【対象】   薬剤師→学生/新人
【ジャンル】 パワハラ?
【程度】   ★★☆☆☆

病院実習における、ある学生の一日である。

8:30 実習開始
指導薬剤師: 「今日から、治験について学んでもらうんだけど、担当者が現在多忙で、ちょっと別室で待っててもらえるかな?」

10:30 担当者登場
担当者: 「お待たせして申し訳ない。えーっと、あとちょっとしたら一区切り付くので、それまでこの部屋にある本を、適当に読んでもらってていいかな

12:00 昼食

15:30 指導薬剤師登場
指導薬剤師; 「治験の講義、どうだった? え? まだ担当者来てないの? しょうがないなぁ。じゃあちょっとだけ、僕の方から病院経営についての話でもしようかな」

16:20 講義終了

16:50 担当者登場
担当者: 「いやぁ、お待たせしました。あれ? もうこんな時間か。じゃあ十分だけ、治験についての話でもしようか

17:00 実習終了


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何を隠そう、私の実体験である。どんな実習記録を書けと。
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↓ ハラスメント体験談募集中


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2012年4月17日 (火)

カルシウム拮抗薬について考える

コニール

L/T/N

アムロジピンと比較し、アルブミン減少、血中アルドステロン低下に優れる。

CKD患者の心・腎・血管保護には、アムロジピンより優れている可能性。

異型狭心症の予後がアムロジピン、アダラート、ヘルベッサーに比して良い。

カルブロック

L/T

炎症マーカー、酸化ストレスマーカーの低下。

AGE(終末糖化産物)の低下(アムロジピンでは変動なし)。

ランデル

L/T

末期腎不全の心・血管保護へのメリット。

心不全に伴う突然死予防への効果が期待される。

アテレック

L/N

アムロジピンと比較し、アルブミン減少に優れる。

糖尿病患者の血糖、脂質代謝、腎機能を改善するとの報告。

アムロジン

L

降圧作用に優れ、抗炎症作用、血管保護作用の報告もある。

透析患者での動脈硬化病変の進展は抑制出来ない。(ニューロタンに劣る?)

アダラート

L

抗炎症作用、線維化抑制の可能性(→腎・肺・肝臓線維化への応用)。

動脈硬化進展の抑制も報告あり。

  ≪CCBの薬剤特性≫

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臨床でよく使用されるカルシウム拮抗薬の特徴を示したものである。
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一般的な解釈で言えば、

◆腎機能障害を合併
 →コニール、ランデル、アテレック、(カルブロック)

◆糖尿病を合併
 →カルブロック、アテレック

◆狭心症予防
 →コニール、アダラート

といったところか?

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以下、私見になるが、

◆コニール

 →確かに異形狭心症予防に、最も使われている印象。腎疾患患者の降圧にも頻用されている。他疾患合併時の高血圧において、ランデルと並び最も使用しやすいか。十分な降圧には8㎎くらい必要かもしれない。

◆カルブロック
 →降圧以外の作用が注目されているものの、使用頻度はさほど伸びないのが不思議。錠剤が大きいのが不満あり。

◆アテレック
 →腎疾患患者の降圧によく使用されている印象。「カルシウム拮抗薬の第二世代」といった印象。

◆アムロジン

 →合併症がない高血圧では、いまだに第一選択の地位を保っている。他社からは、なにかと比較例として遠まわしにダメ出しをされている。腎疾患患者に使用されているのはほとんど見た事が無い。10㎎まで使用できることはメリット大。降圧効果は良さそう。合併疾患(腎障害、心不全など)があると、他のカルシウム拮抗剤を提案したくなる。

◆アダラート

 →古い薬だが、他剤に比べても降圧効果は良さそう。血圧が高めの異形狭心症予防にもよく用いられている。頻脈の副作用が有名だが、あまり遭遇したことは無い。CR製剤の1日1回でコントロール不十分なことがあり、2回の分服例もよく見かける。


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↓ メーカーに聞くと、どれも本当にいい薬に思えてくるから不思議だ。


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2012年4月 1日 (日)

クスリの自己紹介 -7

(◆先に「クスリの自己紹介-5、6」を読まれることをおススメします)


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 <3月29日>
 利香ちゃん、薬剤師国家試験合格、おめでとう! 久々の明るい話題で、日暮家のみんなも笑顔を見せている。最近では、トメさんの症状も落ち着いているように思える。トメさんも、以前のような穏やかな笑みを浮かべて、「おめでとう」と声を掛けていた。利香ちゃんがトイレに立つ振りをして、トメさんに背を向けてそっと涙を拭ったのを、あたしは知っている。


 <3月28日>
 明日は薬剤師国家試験の合格発表だ。利香ちゃんが必死で勉強してきた様子を見ているから、何としても合格してもらいたい。
 それはそうと、国家試験の問題に、あたしの事が出たらしい。自分でもびっくりだ。数多い呼吸器の治療薬の中でも、いつの間にか推奨される治療薬に登りつめているとは。


 <3月27日>
 今日で、アリセプトDさんとお別れだ。二ヶ月程度の短い付き合いだったけど、彼はよく頑張ってたと思う。内服の方々のようにリビングでは無く、あたしはトメさんの部屋に住んでいるから、皆と話す機会はそれほどない。それでも、彼が一生懸命やっていることは伝わった。あたしやユニフィル先輩やラシックス先輩もそれなりのプレッシャーを感じているけれど、彼はその比じゃなかった気がする。現に、由紀江さんや俊之さんの、認知症治療薬への期待はかなりのものがあった。それだけに、効果が無く、吐き気や攻撃性増強といった副作用ばかりが目立ってしまったということに、大きな失望を感じてしまったのだろう。
 でも、彼の誠実な想いはきっと、日暮家の家族にも伝わっていると信じたい。


 <3月15日>
 アリセプトDさんが、塞ぎ込んでいるように思える。ここ――トメさんの部屋で行なわれていることを、偶然目撃してしまったからかもしれない。あたしも最初にそれを見た時は、凍り付いてしまった。でも事情を知っているし、毎日のことだから、慣れてしまった。あのことが原因であることは間違いないように思うけど、なんせあたしはずぶの素人だ。呼吸器疾患以外に口を挟むべきではない。


 <3月3日>
 ブログを始めて二年が過ぎた。ラシックス先輩からは手書きの日記(報告書?)を書くよう勧められたけど、今どき手書きの日記なんて、書いてるクスリはほとんどいない。
 そういえば、今日は国家試験だ。利香ちゃん、頑張ってるかなぁ。昨日は夕食にトンカツが出てきて、利香ちゃんが笑いながら抗議していた。「明日、お腹壊したらどうすんのよ」って。由紀江さんも負けじと反論してたけど。「お腹壊すような料理、私は作りません」なんて。
 よく似た親子で、微笑ましい。
 トメさんはといえば、相変わらず自分の部屋でデジカメをいじっている。


 <2月10日>
 認知症に使われる、アリセプトDさんが日暮家に来た。けれど、今日は話す機会が無くて少し寂しい。間違って飲むといけないからという理由で、みんなリビングに住んでいるからだ。あたしは外用薬だし、大丈夫だろうということで、トメさんの部屋にいる。けれど、時折かちゃかちゃと乱暴に扱われることもある。丸くて大きし、頑丈に出来ているから壊れたりはしないけれど。


 <1月28日>
 最近、トメさんはあたしのことを使ってくれない。利香ちゃんがいつもレバーを押してセットしてくれるのだけれど、トメさんは顔をしかめて払い除ける。口の中が粉っぽくなるのが気に入らないらしい。そうかと思えば、別の日には人が変わったように自分から吸入してくれることもある。まるで、トメさんの中には、違う人格が二人、混在しているように見える――あたしのように。


 <1月18日>
 真っ暗な部屋の真ん中、トメさんが立っている。電気も付けないままテレビのスイッチを点けると、デッキにDVDを挿入する。その手が微かに震えている。青白く照らされたトメさんが、画面を真っすぐに見ている。その横顔に狂気の断片を垣間見た気がして、あたしは薄ら寒くなる。最近では夜になると、毎日こうだ。
 トメさんがリモコンを扱う。皺の多い、ミイラのような指で音量を上げる。その<声>は部屋中に響く。おそらく襖の外、リビングまで届いているだろう。いや、こんな真夜中のことだ、二階で眠る利香ちゃんや、利香ちゃんの両親の耳にも届いているかもしれない。

「おばあちゃん!」
 案の定、しばらくすると利香ちゃんが駆け付けてきた。青く揺れるトメさんを見て、言葉を失っている。
「……何してんの?」
「雅也に、デジカメの使い方を教えてもらおうと思って」
 嘘だ、とあたしは思った。

「おばあちゃん、そうじゃないって」
「こうだよこう。こっちのボタン。これでズームになるから」
 テレビ画面の中で、まだ若かった雅也さんが、笑っている。画面が大きく揺れているから、カメラを操作しているのは不慣れなトメさんなのだろう。時折雅也さんの顔がアップになったり、そうかと思えば白い天井が映し出されたりする。撮影されたのはここ、トメさんの部屋に違いない。
「ああ、そうだったねぇ。なかなか機械は覚えられないんだよ」
 トメさんが、画面の雅也さんに向かって返事をしている。横に立つ利香ちゃんのことなど、目にも入っていないようだった。
 あたしは体全体が震えるのを感じた。
 利香ちゃんが何かを呟き、しかしそれは部屋に響く大音響に掻き消され、形を失って零れおちる。


 <1月10日>
 トメさんが、雅也くんの手を握っている。強く、強く握っている。
「雅也、ビデオの録り方、教えてちょうだい」
 テレビ画面に映し出された、まだ十代の頃の雅也くんに話し掛けている。
「おばあちゃん! そうじゃないって」
 笑い声。久しくこの家で聞いていないような気もする。
 

 <12月31日>
 年末の歌番組を見ていると、最近よくテレビに映っている人気歌手が登場した。爽やかな笑顔、すらっとした体型。声は透き通り、それでいて力強い。どこか、雅也さんを彷彿とさせる。トメさんも同じことを思ったのか、「この人、お前に似ているねぇ」と雅也さんに話し掛ける。雅也さんは何も答えない。黒く塗られた目が、瞬きもせずに画面を注視している。


 <12月1日>
 真夜中、布を擦るような音で目が覚めた。
 トメさんがトイレに起きたのだろうか、と思い部屋を見回すと、布団から出てゆらゆらと立っているトメさんが目に入る。どこか不自然な動きで、まるで夢遊病者のようだった。部屋の明かりを付け、ゆっくりと首を巡らせている。
「雅也」トメさんが囁くような声で言う。
「雅也、そこに居たのね」
 トメさんの視線の先には、一体の人形が置いてある。利香ちゃんが、「殺風景な部屋だから」と置いていった、男の子の人形だ。
 トメさんは人形を抱くと、「雅也」と言った。「起きてるのかい? 雅也」
 それから引き出しを開け、黒いマジックで目を塗る。もともと描かれていた瞳より、一回り大きな円を描き、黒く塗りつぶしている。
「眠れないのかい?」
 その人形――雅也くんは、何も返事をしない。
「寒いから、一緒に寝ようか」
 子供をあやすように声を掛け、すぐに電気を消して布団に潜り込む。

 始め、トメさんが正気を失ったのだと思ったが、すぐにそうではないと感じる。
「雅也、ごめんよ」
 その声が、どこか遠くへ――ずっとずっと遠くへ向けて発していることがわかったから。


 <11月25日>
 時はいつものように過ぎ、日暮家も徐々に――本当に少しずつ、日常を取り戻していく。
 利香ちゃんが、トメさんの部屋に花を持ってきた。「外に咲いてたの」紫色の、綺麗な花だった。あたしの体より少しだけ、色が薄い。
「ああ、ありがとうね」
 笑っているのか、釈然としない。この家から笑顔が消えて久しい。


 <10月13日>
 トメさんが寝言を言っている。「雅也」「雅也」と。何回も。
 それからテレビを点け、放心したように画面を見続けている。


 <9月7日>
 今日、雅也さんが死んだ。就職して二年目の会社から、車で帰宅する途中だった。
 大型トラックとの正面衝突。即死だったらしい。原因は、雅也さんの居眠り運転で、突然反対車線に飛び出してきたということだった。
 皆、病院へ向かい、今は家中がシンとしている。


 <9月6日>
「テレビなんか見ないんだから、いらないんだよ」
 トメさんが苦々しげに呟いている。部屋には、雅也さんが腕を組んで立っている。
「ばあちゃん、そんなこと言ってるとニュースも見れないぞ。もう地デジに変わってるんだから」
「別に不便は無いけどね。テレビを見たきゃ、リビングに行くよ」
「あっちまで行くの、面倒だろ。それに母さんや利香が、観たい番組観てるんだし。とにかく、せっかく買ってきたんだから、文句ばっかり言うなよ」
「ふん。買ってくれなんて、一言も言ってないけどね。年寄りは自分の部屋に籠ってればいいってことかい」
 さすがに雅也さんも気分を害したようで、「勝手にしろよ」と出て行ってしまう。
「汗垂らして溜めたお金なんだから、自分のことに使えばいいんだよ」
 ぼそっとトメさんが呟く。
「ありがとうね」
 小さく、囁くような声だったが、あたしの耳には確かに聞こえた。

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(中略)

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 報告症例  No. 7454

 患者氏名; 日暮トメ(74歳)
 報告者:  アドエアディスカス (反転)

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↓ うーん 暗い話になってしまった。一応、これで最終回です。


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2012年3月24日 (土)

クスリの自己紹介 -6

(◆先に「クスリの自己紹介-5」を読まれることをおススメします)


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 <12月31日>
 長かった2011年も、もうすぐ終わる。来年は、どんな年になるだろう。皆が健康で過ごせるように、願わずにはいられない。リビングでは利香が歌番組を見ている。トメさんは自室に戻っているようだ。早寝のトメさんのことだ、もう寝ているのだろう。


 <1月3日>
 真冬とは思えない、暖かい陽光が差し込んでいる。利香の両親――由紀江さんと俊之さんが、「買い物に行こうか」と言い出した。車で20分ほどのショッピングモールで、新年のバーゲンがやっているらしい。利香がトメさんを誘いに、部屋へ入っていった。それから五分後、浮かない顔で部屋を出てくる。どうやら断られてしまったらしい。
 そういえば、こんないい天気に、トメさんが外へ散歩に出ないのはおかしい。体調が悪いのだろうか。正月といえども、暴飲暴食で心不全が増悪するケースは結構あるのだと、前にラシックス先輩から聞いたことがある。トメさんの病状が悪化していなければいいが。


 <1月10日>
 朝6時。大きな叫び声で目が覚めた。トメさんの部屋からだ。それからのっそりと、トメさんがリビングに現れる。目の下に、大きな隈を作っている。
 二階から降りてくる足音が響き、利香と由紀江さんがリビングに慌てて入ってくる。
「どうしたの? おばあちゃん」
 利香が問い掛ける。トメさんは人差し指を由紀江さんに向け、「お前」と言った。しわがれた声だった。「お前、あたしの財布を盗んだだろう」
 きょとんとした表情の由紀江さんは、やがて我に返ったように「何言ってるの? 冗談やめてよ、こんな朝早くから」と無理やり付け加えたように笑う。利香は目を見開き、呆然としていた。
「お前がやったことはわかってるんだよ」
「知らないわよ。そんなに言うなら、いつもの場所、私が調べてみますから」
 張り詰めた空気の中、由紀江さんが財布を手に戻ってくる。
「ほらお母さん、タンスにあったじゃないの。悪い夢でも見たのね」
「白々しい。自分で盗って、こっそり戻しただけのくせに」
 
 私はこの家に十年以上居るが、トメさんがあんなに恨みのこもった目を人に向けるのは初めてみた。誰もが――戸棚の中にいるラシックス先輩やユニフィルさんまでも、言葉を失っていた。
 どろりと淀んだ障気が、この家を浸蝕していく――私はそう思った。いや、既に去年のあの時から、この家庭は何かに侵され始めているのかもしれない。少しずつ、ゆっくりと。白蟻が、誰にも気付かぬうちに柱を食い潰していくように。


 <1月18日>
 大声で目が覚めた。夜中の十二時過ぎだろうか。
「おばあちゃん!」雅也の声だ。
 ドタドタと足音がして、利香と由紀江さんがリビングに降りてくる。少し躊躇った後、利香がトメさんの部屋の襖を開ける。
「……何してんの?」
「雅也に、デジカメの使い方を教わろうと思って」
 トメさんのくぐもった声が、私の耳まで届く。
「おばあちゃん、そうじゃないって」
 場違いなほど、楽しげな雅也の声。
「こうだよこう。こっちのボタン。これでズームになるから」
「ああ、そうだったねぇ。なかなか機械は覚えられないんだよ」

「……ねえおばあちゃん、もう夜中だよ。今日はもう寝よ」
 利香の声は、心なしか震えている。


 <1月25日>
 最近、この家に来たばかりのことを思い出す。私が心不全の治療薬としてトメさんの担当になった時、利香はまだ8歳だった。オレンジ色の、小さな私のことをラムネとでも勘違いしたのか、しきりにシートを触り、興味深げに見ていた。当時雅也は10歳。既にその頃から機械が好きで、コンピューター関係の雑誌を夢中で読んでいた。しかしおそらく半分は、意味さえわかっていなかったのではないか――今になって私はそう考えている。
 由紀江さんと俊之さん、そしてトメさんも、みんな仲が良かった。無口だがいつも子供を気にかけている俊之さん、少し口煩い由紀江さん、おっとりとしたトメさん。
 この日暮家に配属されて本当に良かったと、当時の私は思っていた。
 今では私はラシックス先輩と並び、心不全治療の代表格として知られるようになってきたものの、当時は決してそうではなかった。トメさんがめまいを起こしたり、前日より血圧が10も下がっていたりすると、もしや私のせいなのではないかと気を揉み、眠れないことも多くあった。ラシックス先輩は、「気にするな」と言っていたものの、高血圧治療剤の私がここにいること自体、場違いとさえ思っていた。
 そんな私を、トメさんは欠かさず飲んでくれた。白湯を用意し、一錠ずつ、しっかりと。


 <2月10日>
 今日から、新しい仲間が加わった。アリセプトD君という、すらっとした好青年だ。少し話した印象では、痴呆の治療薬としては第一線のクスリなのに、それを鼻にかけることなく、謙虚な対応で接してくれる。
「僕なんか、完全に病気を治すクスリってわけじゃないすから」
 伏し目がちにアリセプトD君が言ったが、それならば私だってそうだ。考えてみれば、病気を完治するクスリなど、世にどれだけあるのだろう。そもそも、心不全は病気なのだろうか。私はそんなことを思うことがある。心不全だけではない。高血圧は、動脈硬化は、不整脈は、病気なのだろうか。歳老いていく過程において、当然の成り行きではないのか。

 私たちクスリには、<期限>というものがある。期限内においても、晒された環境によっては、変色したり吸湿したりで、不調により前線から退くものもいる。私たちはそれはそれで仕方ないと、割り切っている。
 人間は、そうもいかないらしい。<期限>まではなんとしてでも――いやもしかすると期限を過ぎてさえ、生きようとする。
 不可解だったが、日暮家を見ていると、その心境も少しだけわかる気もする。


 <2月22日>
 トメさんの心不全症状は落ち着いているものの、痴呆症状が止まらない。私の管轄ではないのだが、アリセプトD君が一人で奮闘している様子を見ていると、いたたまれなくなってくる。私はせいぜい、心保護や、嚥下状態を改善することしか出来ない。


 <3月19日>
 アリセプトD君が、真実を知ってしまったらしい。
 彼は、ショックだったと思う。自分が、全く効果を示していないと思い詰めているかもしれない。勝手に家出、なんてことにならなければいいが。
 アリセプトD君が来た日、敢えて本当のことを話す必要はないと、ラシックス先輩たちと話合った。私もそれに同意した。しかし考えてみれば、同じ家で暮らしているのだから、隠し通すことなど不可能だったのだ。


 <3月31日>
 寝床を共にしていたアリセプトD君がいなくなり、心なしかラシックス先輩も寂しそうだ。最後の日、彼の書いた報告書を読ませてもらった。あのことについては、詳しく書かれていない。普段は記録について口煩く言うラシックス先輩も、今回は特に何も言わなかった。
 さて、ここに至るまで先延ばしにしてしまったが、記載しないわけにもいかないだろう。報告することは3つある。

 1つ目は、私のことだ。
 今回限りで、私の役目は終わり、後輩に引き継ぎを行なうことになった。前々から薬剤師さんに提案されていたようだが、長く慣れ親しんだクスリということで、由紀江さんが断っていたらしい。ここに来て、少しでも金銭面の負担を減らそうという考えのようだ。私以外にも、タケプロンさんも次回から後輩へ引き継ぎを行なう予定だ。実は昨日、ささやかなお別れ会を開催してもらった。同じ事務所に所属している、アイドルグループARBや、アルダクトンさん、セララちゃん、ラジレスくんからも労いの便りをもらった。今の時代、私なんかよりもずっと忙しいはずなのに、古参である私のことを敬ってくれる。

 そして2つ目。
 利香が、薬剤師の国家試験に合格した。既に、市内に4箇所ある某調剤薬局での就職が決まっている。小さい頃から、トメさんのクスリに興味を持ち、自分なりにいろいろ調べ物をしたりしたことが、結果的に薬剤師という職へ就くきっかけになったのかもしれない。

 最後、3つ目。
 トメさんが、今年中に日暮家を離れ、施設に行くことになった。トメさん自身が言い出したことだった。まだ身の周りのことを出来るうちに、自分のことは自分で決めたい、と。まだ受け入れ先は決まっていないが、候補はいくつか挙がっている。
 利香は何も反対しなかった。ただ、「雅兄ちゃんは反対すると思う」と、ぽつりと漏らした。トメさんはそれを聞いて泣いた。
「あの子は寂しがり屋だから、どうか、あたしがいなくなることは直前まで言わないでおくれ」
 由紀江さんや俊之さんも困った顔をしていたが、最後には頷いた。利香だけは、口を固く結んだままそっぽを向いていた。
 今日の夕食は、トメさんの好きなメニューばかりが出た。少し塩分が多めなのが気になったが、私は何も言わなかった。トメさんは、まるで認知症なのが嘘であるかのように、以前のように笑い、喋り、食べた。それが一次的な快復に過ぎないことは、素人の私にもわかる。


 午後十時。
 普段ならとっくに寝ている時間だが、目が冴えて眠れない。利香がさっき、トメさんの部屋をノックしようとして、結局そのまま立ち去っていった。
 私はもう少し、起きているとしよう。日暮家に来て14年、思い起こすことなど、いくらでもあるのだから。


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 報告症例 25897

 患者氏名; 日暮トメ(74歳)
 報告者: レニベース錠 (反転)

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2012年3月16日 (金)

クスリの自己紹介 -5

 <2月10日>
 今日、私はトメさんの担当に任命された。トメさんというのは74歳のおばあちゃんで、以前から心不全やCOPDの治療を行っている。このところ調子がおかしく、家人が心配して某総合病院を受診したところ、早期治療を開始した方がいいだろうということで私の出番となったわけだ。
 トメさんには、三度の入院経験がある。60代で心不全を発症し、それから内服薬を開始している。二度目の入院は、心不全の増悪によるものだった。そして三度目は、肺炎である。誤嚥が背景にあったらしい。つまり、内服を開始するにあたっては、飲みやすさも考慮にいれなければならない。幸い、私はクスリの中でも飲みやすい方だという自負がある。
 日暮家の皆も、私に期待しているようだ。何とか病状を抑えることができればいいが。


 <2月11日>
 トメさんが私を放り投げた。
 どうも、味が気に入らないらしい。誰でも無難に飲める味にしてあるはずだが、もしかして味覚異常もあるのかもしれない。そういえばトメさんはここ数日、食事をあまり食べていないようだ。


 <2月13日>
 トメさんの孫で、今年22歳になる利香さんが、リビングで泣いていた。理由は聞けなかった。両親が深刻そうに話している声が部分部分で聞こえてきたが、それを聞く限りでは原因はどうやらトメさんにあるらしい。一方的だ、と私は思う。このところ、何か家族内でトラブルがあると、何かとトメさんばかりが悪者にされている。トメさんだって、自室で一人泣いていることがあるのを、私は知っている。


 <2月15日>
 私を飲み始めて5日が過ぎた。幸い、目立った副作用は出ていないようだ。食事も昨日今日は全量摂取できている。


 <2月24日>
 受診日。
 医者の話によると、トメさんの病状は良くも悪くもなっていないようだ。嚥下能力は落ち着いており、今まで通りの柔らかい食事を続けていれば、誤嚥の恐れはないだろう、という話だった。医者の話を聞きながら、トメさんはぼんやりと診察室のポスターを見ていた。有名歌手が、病院には不釣り合いなほどの爽やかな笑顔を見せながら、覚せい剤撲滅キャンペーンを推進しているものだった。トメさんの年代でも知っているのだろうか。ずいぶんと若く、10代20代の若者から支持されている歌手なのだが。
 それはそうと、今日から私は増量された。トメさんの付き添いで来ていた、娘の由紀江さんは少しだけいやな顔をしたが、医者の説明により納得したようだった。今のままでは、病気の悪化が心配だ。


 <3月1日>
 午後11時半。隣の部屋で、トメさんが雅也さんと話している。居を共にするラシックス先輩から聞いたところ、雅也さんは、利香さんの二つ上のお兄さんだそうだ。となると、今年で24歳になる計算だ。その割に声が幼く、まだ十代のようにも思える。
 ここ数ヵ月、トメさんの部屋には誰も寄り付かなくなっているようだったが、雅也さんは例外のようだ。もっとも、帰りは遅いようで、日中に彼の姿を見たことはない。
 帰りが遅いといえば、ここ数日は利香さんの帰りも遅い。私は夜九時には寝るが、その時間にまだ帰宅していないということは珍しくもない。試験勉強だというが、家に帰りたくないという思いもあるのかもしれない。
 私は深夜十一時か十二時に、トメさんの部屋から聞こえる雅也さんの声で目が覚める。何を喋っているのかはよく聞こえないが、「雅也」と優しく呼びかけるトメさんの声が印象に残っている。


 <3月9日>
 心配していたことが起きた。私がここに来ておよそ一ヵ月、トメさんが吐き気を訴えている。新参者の私は、皆から白い目で見られている。おそらく原因は私だ。
 今日、由紀江さんがトメさんを病院へ連れていった。私はそのまま解雇処分になるかと思ったが、ナウゼリンさんの仲介で、なんとかこの家に留まることが決定した。


 <3月19日>
 今日知ったことを、記述したくない。この家は、どこかおかしい。
 ――いや、悪く言うのはやめよう。「あれ」は、トメさんなりの自己防衛なのかもしれないのだから。


 <3月27日>
 今日でこの家を去ることになった。私を飲んで1ヶ月半、十分な効果が得られなかったことが原因らしい。私には、病気を完治させる力は無い。せいぜい、進行を遅らせる程度が関の山だ。しかし、時として――今回、トメさんがそうであったように――効果が得られないだけでなく、周辺症状の悪化が見られるケースがある。怒りっぽくなったり、落ち着きを無くしたり、介護する人間にとっては非常に負担となる症状が、トメさんに表れた。もちろん、私のせいでは無く、病気の進行によるものと考えることも出来る。それでも、一旦私がこの家を出て行き、その後の経過を見ていこうとする医者の考えは、私も間違っていないと思う。

 私は、何かの役に立ったのだろうか。今まで何組もの家庭を見てきたが、そのたびに自らの無力を実感し、打ちひしがれる。もっと出来ることがあったのではないか。家族の絆を深めることが、自分には出来たのではないか。
 私が寝泊まりしていた薬袋には、トメさんの字でこう書いてある。
 ――ものわすれのくすり――

 トメさんは一体、どんな気持ちでこれを書いたのだろう。病気が治るかもしれないという期待を込めていたのか。大切な思い出を無くしたくないという、強い願望が込められていたのか。自分の子供や孫との、温かった関係を取り戻したいと祈っていたのか。

 ぼろぼろになった薬袋。隙間風が吹いて寒かった時もあったけれど、私は不平を言わなかった。どうして調剤薬局で、トメさんは新しい薬袋をもらわないのか、古い袋をいつまでも使っているのか、私は薄々感付いていたから。
 トメさんの願いは、少しだけ――ほんの少しだけ、叶っていたのかもしれない。そう思うのは、私の身勝手な想像だろうか。
 この家庭が今後どうなっていくのか、私にはもう知る術が無い。関係は壊れ、修復不可能になるかもしれない。現に、何度も喧嘩をし、壊れかけている様子を、私は目のあたりにしてきた。しかし、一筋の光明が、私には確かに見える。

 薬袋の裏側、明らかに若い女性のものと思われる字で、文章が書かれている。
 ――朝ごはんの後、忘れずに飲んでね。

 ピンク色のきらびやかなインクで書かれたその文字は、時間の経過のためか、それとも何度も何度も指でなぞられていたためか、薄く、掠れ始めている。
 
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 報告症例 No.17457
  
 患者氏名: 日暮トメ(74歳)
 報告者  : アリセプトD錠  (反転)
 

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2012年3月12日 (月)

クスリの自己紹介 -4

 ――はい。僕が、あの子を刺しました。それは間違いありません。

 恨みなんて別にありませんでした。明るい子で、誰からも好かれていましたし、ほんと屈託がないというか、笑顔に癒されるといいますか。
 あまり外見を気にしない子でした。服装は、動きやすさを最優先したようなラフな格好で――昨日だってそうでしたよね、あれが普段からの彼女の格好なんです。そういえば小学校に行く時も、いつも帽子を被っていましたね。運動が好きで、男子とも分け隔て無くサッカーや野球をしていました。それでも女子から除け者にされなかったのは、やっぱりその気の良さが関係していたんじゃないでしょうか。弱いものを放っておけないっていいますか、正義感が強い性格で。それも押しつけがましい感じじゃなくて、常に相手のことを考えて行動していました。

 昨日のこと、ですか。もう何度もお話していると思いますが。
 ――わかりました。納得してもらえるまで、何回でもお話しますよ。
 家を出たのは、朝の十時過ぎでした。僕はいつものように彼女のポーチに入れられて、だからどこへ向かったのかはわからないんです。車で移動しているようでした。ええ、あの赤い軽自動車です。彼女のお母さんが運転していたんだと思います。
 二十分ほど走ったでしょうか、車が停まり、そこからは歩いてどこかへ向かっているようでした。時折、二人が何やら冗談を言って、笑い合っている声が聞こえてきました。
 楽しそうだったんです。僕はその笑い声を聞くだけでもう、幸せな気持ちになっていました。

 悲鳴が聞こえたのは、突然でした。
 あれは間違いなく、彼女の声でした。それから、慌てたようなお母さんの声が被さり、僕はだんだんと怖くなりました。只事では無い何かが起きたと感じたからです。急に眩しい光が差し込んできて、僕の目に、倒れている彼女の姿が飛び込んできました。
 ――ええ、本当です。僕が外を覗いたその時点で、彼女は既に倒れていました。意識はありましたが、よほどショックなのか、顔は青白く、今にも泣き出しそうな表情をしていました。

 それから、僕は彼女を刺しました。それは本当のことです。
 でも、犯人は別にいるんです。信じて下さい。僕のせいじゃないんです。どうしてあの現場にいたのかって? 僕は大抵、彼女と一緒にいますから。出掛けるときはいつも、あの桜色のポーチに入れられて、行動を共にしていますから。
 とにかく、彼女に聞いてもらえれば、僕が犯人じゃないって証言してくれるはずです。お母さんでもいいです。話を聞いて下さい。
 ところで犯人が刺したのは、どこでしたか? 後頸部? 僕は、そんなところ絶対に刺しません。僕が刺したのは太股で、それも悪意を持ってやったわけではないんです。

 これほど言っても信じてもらえませんか。
 言っておきますが、ヒトを刺したのはあれが初めてです。僕の出番は極端に少ないですし、まだそれほど出回っているわけではありませんから。僕が彼女の担当になってから半年以上経ちますが、僕の出番は一度もありませんでした。だから――そうですよ、昨日が僕の初舞台ということになります。

 僕は一生、犯人を許しません。きっと、空へ飛んでいったあいつが――黄色と黒の縞模様をしたあいつが犯人です。彼女が目覚めたら聞いてみてください。もしかして、犯人の姿を目撃しているかもしれない。
 まあでも……僕が犯人だろうと無罪だろうと、どのみちこれで僕は用済みになってしまうんでしょうね。燃えないゴミに捨てられてはいおしまい。
 彼女は命に別条は無いんでしょう? 彼女の目が覚めたら伝えて下さい。僕が――エピペン(反転)が心配していたって。それと、どうもありがとう、半年間すごく楽しかったよ――って。


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2012年3月 8日 (木)

クスリの自己紹介 -3

 こんばんは。いつもお世話になっております。
 私はマクロライド系抗生物質に分類される、クラリスといいます。日頃から、呼吸器疾患やピロリ除菌で活躍の場を与えていただき、ありがとうございます。最近では、同じ事務所のジスロマックSR君も大忙しで、ちょっと疲れが溜まってるみたいです。週休6日なんて、私にとっては羨ましい限りですけれど、やっぱりいろいろとストレスも溜め込んでるみたいですね。
 クスリそれぞれ、苦労もあるということでしょうか。

 あの、今日はどうしてもお話しておきたいことがあるんです。私の話ではないんですけど、大丈夫ですか? ――ああ、良かった。ずっと伝えたくて、でもどうしたらいいかわからなくてもやもやしてたんです。もしかして、私が出しゃばるのも余計なお世話かな、なんて思うんですけど、どうしても黙っていられなくて。
 
 私が伝えたいのは、私の仕事仲間のことなんです。
 ――恋人? いいえ、そういう関係じゃありません。ただ、以前からよく一緒に仕事させてもらっていたんです。――そう、それももう昔の話です。彼は数年前、この業界から強制的に引退させられましたから。
 今までも、そうやっていつの間にか姿を消したクスリたちは数多くいます。私の従弟も、まだ年端もいかない子供だったのに、見向きもされずに消えていきました。従弟の名前ですか? ケテックっていうんですけど、覚えてらっしゃいますか?
 他にも、血糖に影響を与えるなんて世間を騒がせた、ガチフロ君も業界から消えていきました。

 でも、<彼>は違います。人様に悪いことなんか、一つもしてない。
 ほんとに優しい性格でした。誰に対しても笑顔で、嫌な顔一つしないんです。私なんて、この業界で働いて長いですけど、まだ他のクスリとのコミュニケーションがうまく取れないことが悩みで、多分私の性格が悪いんでしょうね――相手を怒らせてしまうことが多々あるんです。それで人様にまで迷惑掛けてしまったり。
 相性、なんて一言で片付けたくはないんですけど、特に私はテオドール先輩とか、リピトール君とかと相性が悪いです。気を付けてるつもりなんですけど、一緒に働くとどうしても……。こないだは、テオドール先輩から、「お前といると、必要以上に残業しなきゃなんねぇから、すげえ疲れるよ」なんて言われて。

 でもその点、<彼>は立派でした。私、すごいなぁって、いつも感心していたんです。だって、どんな人ともうまく仕事してましたから。もちろん私と一緒の時も、全然態度は変わらないし。それに彼、すごく謙虚なんです。自分から表舞台に出てこないっていうか。

 忘れられないエピソードがあります。
 あれは四十代の、男の人でした。緑内障に罹っているのですが、ある日、風邪を引いてしまったんです。いつもはPL先輩がスタンバイしてるんですが、緑内障ということで断られました。喉の痛みが特にひどかったので、今度はロキソニン君が出勤していきました。しかし消化性潰瘍があるということで、またも出勤停止命令が出ました。

 それから、私の右斜め前、漢方薬の棚が騒がしくなったのを覚えています。出しゃばりな性格の葛根湯が一人騒いで熱くなっていました。
 でも結局出勤を命じられたのは、SPトローチと、<彼>でした。
 <彼>は5日間、黙々と任務を全うしました。クスリを飲んだ男の人は、「すっかり良くなったよ。ありがとう」と笑顔を見せていたそうです。
 すごいと思いませんか?
 あの、『天下の抗炎症剤』ロキソニンでも、『過去の産物』PL顆粒でも、『困った時の無難チョイス』葛根湯でも無く、<彼>が選ばれたんです。そして見事に風邪を治したんです。その時、彼はぼそっとこう言いました。「まぐれだよ」って。

 今思うと彼は、自分の運命を、そして自分の本当の姿というものを、知っていたのかもしれません。だって、それからすぐでしたから。「効果が期待できない」という理由で、私の知らない、遠い所へ引っ越していったのは。

 あの日に彼が見せた寂しげな笑顔。「まぐれだよ」って呟いた時の表情。

 きっと、騙すつもりなんて無かったんです。私、知ってます、彼が誰よりも紳士的で、実直に仕事をしていたこと。ただ、不器用で自己アピールが出来ないだけなんです。効果が無いかもしれないなんて、誰よりも彼自身が感じていたはずです。でも自分を信じて、今まで頑張ってきたんです。それで救われた人だって、大勢いるんです。

 みんなは彼のこと、「詐欺師」とか「プラセボ」とか言うけど、ひどいじゃないですか。それまで何十年、彼と一緒に働いてきたわけでしょう? 効果が無いからって、手の平を返したように冷たく当たるなんて、私、許せません。

 ……今日言いたかったのは、そのことです。
 彼ですか? 最後の日、私に挨拶に来てくれました。どうして私のところに来たのか、私にはなんとなくわかります。
 ――ええ、次は私の番だということを、彼はそれとなく察したのかもしれません。マイコプラズマにはほとんど効かないなんて話も出ているし、ピロリ菌にも耐性が増えています。かといって、抗生物質の私に、抗炎症作用を求められても……アナウンサーがバラエティメインで働くようなものじゃないですか?

 長々とすみませんでした。皆様もどうか、彼――ダ―ゼン(反転)さんのことを、忘れないでいて下さい。お願いします。


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↓ どうかクラリスにも愛の手を


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2012年3月 5日 (月)

クスリの自己紹介 -2

 おう、今日はどうしたんだ。大規模臨床試験のお誘いかい? 
 ――あ? 自己紹介だ? 今さらそんなことしてられるか馬鹿やろう。俺のことを知らない奴なんて、薬剤師はもちろん、薬学生にもいないってんだよ。大学で真っ先に習うだろ、俺のことは。
 しかしまあ、思い返せば俺もよく働いたと思うよ。日本の医薬品業界の先端を走ってきたからなぁ。俺の兄貴はもう、35歳になったんだっけかな、そう考えると年取ったもんだよ。

 あれ? 兄貴がいるって言ってなかったか? 俺ら、7人家族なんだよ。結構大所帯だよな。だから、今までもクレームがあったよ。全員似たような姿形してるから調剤を間違えやすいとか、名前の後のアルファベットはどういう意味かわかりにくい、なんてな。
 まだまだひよっこのくせして、言うことだけはいっちょ前なんだよな、薬剤師って奴らは。
 
 それと、最近はあれだ。家族だけじゃなくて、俺の後輩連中――ああ、そっちの言葉じゃ後発品とかジェネリックって言うんだっけ?――がとにかく頑張っててよ、なかなか頼もしいんだ。後輩は何人いるのかなぁ、たぶん十何人だと思うが、よくわからねぇ。

 人気を取られて悔しくないのかって? 馬鹿言っちゃあいけねぇ。医薬品なんて、せいぜい10年や15年活躍できれば御の字なんだ。俺はもう、引退でいいんだ。既にこの業界じゃ、「伝説のクスリ」として名を残しているしな。あとは俺の可愛い後輩たちが活躍してくれればいい。まあ、不器用で至らない点も多々あるし、ちょっと安っぽいのが玉にキズだが、どうか勘弁してくれ。

 それより、心残りは俺の兄貴だよ。
 成分は俺たち家族全員一緒なのに、兄貴ばっかりが責められるんだ。おかげで兄貴の出番はこのところ全く無し。後輩からも全く相手にされないし、哀しいもんだよ。
 兄貴が悪いんじゃない。兄貴は、ちょっと気が早いだけなんだ。のんびり効果を待つなんてことは、短気だから出来ないってだけなんだ。それなのに、やれ急激な血圧低下だ、動悸がするだ、世間が騒ぎ立てて。あんなもん、効果の裏返しだとは思わないのかねぇ。そうこうしてるうちに、何とかっていう――名前忘れちまったなぁ――、色白の草食系野郎に人気が集まっちまって。

 時代の流れを感じるよ。今時の若い薬剤師は知らないかもしれないが、俺たちファミリーは、かつては日本で一番売れたクスリとして脚光を浴びたこともあったんだ。
 今じゃひどい有様だけどね。
 まあそれも別にいいんだ。

 俺が許せねぇのは、若くて実績もろくにねぇくせに、国民的アイドルグループだか知らねぇが、でかいツラしてる奴らがいるだろうよ、ええっと――なんだったか。十代の若い娘たちで結成された、A……A……そうそう、ARBっていうユニット。あ? まだ十歳にもなってねぇガキも混ざってるのか。大丈夫なのか、そんな奴を荒風激しい血圧療法の第一線に立たせて。

 とにかく奴ら、まだまだ若造のくせして、俺たちが積み重ねてきた実績を平気で踏み台にしやがって。おまけに、そうだ、草食系のアムロジピンとか言う野郎。ARBとコンビだか知らねぇが、新しいユニット結成して、おまけに「カデュエット」「ユニシア」なんて洒落た名前まで付けやがって。

 俺なんか名前の由来が、「血管」とか、「大人の」、とか、そんなシンプルな由来だからな。コンピューターで決めたとか言うけど、要は適当ってことだろ。
 「アダルト」が変化してアダラート(反転)なんて笑い話にもなりゃしねぇ。

 そんなこんなで愚痴ばかりになっちまってすまなかったな。
 時代の流れに付いていくのは大変だろうけど、薬剤師のみんなも、まあせいぜい頑張れよ。


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↓ やみつきになりそう(笑)


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